栄養医学の実践





うつ病は、脳の中にあるセロトニン神経の活性が低下して、その神経細胞の末端から放出されるセロトニンの量が低下するために起きると考えられています。
セロトニン神経細胞の核は、脳の一番奥深く中央部分の正中部にあって、そこから軸策という繊維が大脳全体に広がっています。
その軸策の末端から放出されたセロトニンは、周囲の神経細胞に刺激を与えて、大脳の様々な部分の活性化を司っています。
ですから、セロトニン神経の活動が低下すると、大脳全体の機能が低下します。
うつ病の症状である、意欲や活動性の低下、思考力や判断力・理解力の低下、感情の落ち込み、食欲低下、睡眠障害などの全般的な機能低下が起きるのです。
うつ状態の全てをこの理論だけで説明することは困難ですが、医師が一応うつ病と診断をして、抗うつ薬を使う場合はこの理論を前提として行うわけです。




セロトニン神経の軸策の末端から放出されるセロトニンは、その神経細胞に再取り込みのチャネルを通して、再び神経内に入り再利用されます。
抗うつ薬は、そのチャネルをブロックして、セロトニンが神経細胞内に戻ってこれらない状態にします。
そして、神経細胞間の隙間にセロトニンを溜め込んで、となりの神経細胞への刺激閾値を上げようとします。
うつ病の原因が、神経細胞内でのセロトニンの産生能低下であるのですが、抗うつ薬は決して直接的には、セロトニンの濃度を上げることはしません。
抗うつ薬は、対症療法なのです。
ですから、うつ病は「繰り返しやすい」と言われるのです。
抗うつ薬が効きにくい症例が増えている原因でもあります。
セロトニンの濃度が、さらに下がると、理論的に抗うつ薬は効き目がなくなります。
抗うつ薬は、セロトニンを節約しようとしますが、節約する量もなくなると、効かなくなるのです。それが、抗うつ薬に治療抵抗性の患者さんが増えている原因と思われます。



血中のセロトニン濃度を測定することができます。
うつ病が、セロトニンの欠乏であるという仮説のもとに、抗うつ薬の治療があるのですが、血中のセロトニンの濃度を測定は、一般的に行われていません。
脳の中のセロトニン濃度との関係ですが、血中の濃度と相関があることが知られています。
ですから、血中のセロトニン濃度を測定することによって、生物学的にその人の脳のセロトニン神経活性の程度が推測されます。
この濃度が極端に低く、抗うつ薬で効果が薄い人は、すでに抗うつ薬が効きにくい状態にあると考えられます。漫然と抗うつ薬のみを投与することに疑問がでてきます。



なぜセロトニンの産生能が低下するのか。そのメカニズムについての研究が非常に遅れています。薬品の研究開発に、膨大な時間と費用がかかっているのにもかかわらず、根本的な問題には手があまり着けられていません。
そのメカニズム(物質レベルで)は、二つの障害が予想されます。
@代謝過程の障害
Aシグナル回路の機能的な障害

@代謝過程の障害
セロトニンは、アミノ酸のトリプトファンから、5−HTPになり、セロトニンになります。この代謝は、セロトニン神経細胞の中で行われます。
  この二つの代謝の過程で、二つの酵素が働いています。

 トリプトファン→(トリプトファンヒドロキシラーゼ)→5−HTP

 5−HTP→(芳香族-L-アミノ酸デカルボキシラーゼ)→セロトニン

 抗うつ薬に治療抵抗性の患者さんで、血中セロトニン値が極端に低い人の血中トリプトファン値を測定しても、ほぼ基準値にあります。
  つまり、セロトニンの産生障害は、上記二つの酵素の障害があることが予測されます。
ここに、分子栄養療法の可能性があります。
  酵素の障害は、その産生に関与しているDNAやフリーラジカルなどによる障害など、何らかの機序が考えられます。

Aシグナル回路の機能的な障害
  セロトニン神経には、複雑なシグナル伝達の機構が働いており、刺激の促進系や抑制系が考えられます。またそれに関与するレセプターの性格と数も関与しています。
  これらについては、まだ十分な解明はなされていません。



 セロトニンの代謝過程を考えると、セロトニンの産生を促進させる方法として、分子栄養療法的なアプローチがあります。
セロトニンの前駆物質である、トリプトファンや5−HTPのサプリメントの摂取が考えられます。
  実際に血中のセロトニン濃度が低い患者さんに、摂取してもらうと、血中濃度の上昇とともに症状の改善が多くの例でみられます。
この代謝過程でビタミンのB群が関与しているので、比較的高単位のビタミンBの摂取が必要です。
この療法で気おつけなければならないのは、高セロトニン血症です。セロトニンが過剰になると、セロトニン症候群という副作用がでることがあります。時には医学的な関与が必要な場合もあります。
ですからできれば、血中セロトニンの濃度を測定しながら、摂取した方がよいと思います。
サプリメント療法も、根本的な療法ではありません。あくまでも、セロトニン濃度を補助的に高めることをするだけです。
根本的な療法は、神経生理学的に正常な働きがするように戻してあげることです。
軽度のうつ状態であれば、運動療法などがその適応になります。

 

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